夜の帳の東横イン見送りながら東に向かう

昨年の秋に購入して読みどきを見計らっていた津原泰水『夢分けの船』を今回の旅の相棒にしたのは果たして大正解だった。著者らしい、瀬戸内の方言にこだわって書かれた青春小説を、まさにそのあたりを列車、バス、船で移動しながら少しずつ読み進める。こん…

それとブルース

人の話の何を憶えているかというのはおかしなもので、大学時代の友人Mがある日こぼした一言を時々思い出す。曰く、何につけてもバランスは大事だ、自分はそれだけで生きてるとこがある、と。東京で生まれて育った、気い遣いのMらしいと思った。去年集まった…

So we beat on, boats against the current

いとうあさこの「浅倉南40歳、なんかイライラする」は至言だ。中年になると、いつもうっすらと、つまんねえなあと思っている。ぼんやりと、寂しいなあと感じている。だから旅に出る。それしかない。 「ギャツビーはあの緑色の光を、時とともに遠ざかる、煌め…

Go easy, step lightly

先週の戸田競艇はちょっとおかしいツキ方だった。ボックス一通りしか買ってないのに7レース中4レース当たった。これで大したアドレナリンが出ないんだから俺にはギャンブラーの血が流れてないんだと思う。 今週はずっと、もう何年も聴いていなかったクラッシ…

PERFECT DAYSをみた

こんな風に生きていけたなら、じゃないんだよ。 独身中年としては、役所広司演じる主人公の平山の孤独が自分ごととして身につまされて仕方なかった。選んだ孤独は良い孤独だとでも? レビューを見ていて絶賛する人が多いことに気が滅入る。確かに、東京の東…

年末年始に見た映画

ウィッシュ 中島みゆき 夜会の軌跡 2分の1の魔法 イロイロ ぬくもりの記憶 佐々木、インマイマイン ほつれる さかなのこ アフターサン 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎

年の瀬ナニワ欲望旅行

北欧館がない大阪なんて。 というわけで関西への帰省はやめて東京で年越しを迎えることにした。40を過ぎたゲイにとって実家や親戚の集いはストレスでしかない。親の家で過ごす気詰まりな時間の前には、ひたすら自堕落な1〜2泊の一人旅がないとバランスがとれ…

No man is an island

ここ何年かは新文芸坐でひとり『スモーク』を観るという最高にセンスのいいクリスマスの過ごし方をしている。人生で最も繰り返し観ている映画の一つだ。毎回、泣くポイントが増えていて、今年は、写真に映り込んだ妻を見つけたポールに煙草屋のオーギーが「…

桂米朝と奥田民生が同じことを言っている件

桂米朝作の落語「一文笛」が好きだ。盗人がこれまでの行いを悔い改めて裏稼業から足を洗ったかと思いきや、貧乏人の子どもを救うために最後のひと仕事。オチの台詞「わい、ぎっちょやねん」がたまらなく良い。善と悪というか聖と俗というか嘘と真というか、…

私たちに出来なかったことを とても懐かしく思うよ

業界のパーティーで、最初の会社で同期だった男に会った。某社でなかなかのポジションに就いてることは風の噂で知っていた。へえあいつがね、と言われがちなやつだ。 これまでに勤めた4社全ての人間がその場にいた。我ながら効率よく転職してきたものだ(狭…

手に入らなかったものを諦める方法は3つある

まずはお前の心を動かしたものに向き合い、対象化し、言葉にすること。そうだ、目がキレイだったな。お前の好きなタヌキ顔だ。テーブルの向こうに座るなりスウェットを脱いだ上半身はそそったよな。ひとけのない場所に行きたがると思えば急に肩に腕を回しキ…

世界一短い恋の始まりと終わり

ある公演を観るために仕事を早く切り上げて駅に向かうと自宅前の幹線道路で大柄でメガネ、分かりやすく俺のタイプな男の子と目が合い、もしかして向こうも俺に気がある?って誤解するには充分な長さの見つめ合いが続いたから10歩ほど過ぎて振り向けばスマホ…

To remember how good you looked

(2023/11/18, 19 Manic Street Preachers & Suede @Zepp Haneda) James Dean Bradfield. Brett Anderson. You are my heroes, you and everyone in the bands. Have always been, will always be. Thank God you kept playing. You made me who I am today…

Stay Beautiful, Beautiful Ones

かっこいいとはこういうことだと17のときに刷り込まれている。心斎橋にあったヤマハのレコ屋で買ったマニックスの2ndを祖父宅のステレオにかけたあの日からずっと、男の子どうしのキスを平気でジャケにあしらったスウェードの1stにドキドキしたあの瞬間から…

あなたのいない世界にはあたしもいない

王将の唐揚げでしか埋まらない空腹感があるように、近所の本屋が閉店を決めたときにしか疼かない痛みというものがあるみたいだ。いつもいつも遅すぎる。Amazonよりは楽天、楽天よりはリアル書店、と心がけてきた判官贔屓な自分だが、繁華街の大型書店よりは…

花火と傘

ようやく冬らしくなった今日、夏のことを記録しておく。 SOMPO美術館の山下清展と、渋谷ヒカリエでやっていたソール・ライター展がよかった。清が1922年、ライターが1923年の生まれで、ほぼ同い年。 少年時代からその突出した美術の才能で注目を浴び、放浪の…

1995年ごろ

大学入学前の補習授業で提出したレポートに返してもらった先生のコメントを時々思い出す。自分の書いた内容は恥ずかしいので割愛するが、19歳らしい感傷や強がりを未熟な言葉で綴ったものだった。(感傷と強がり?今も同じだ) 君の言いたいことは分かるよ、…

ケンチコヒシヤヨサムノバンニ

井伏鱒二展に行ってきた。 漢詩の超訳で知られる「厄除け詩集」は今でも枕元にある。本当に厄除けのおまじないだ。 アチラコチラデブンガクカタル、は文学仲間の中島健蔵(ケンチ)に宛てた訳詩で、夜寒の晩にあいつはどうしてるだろう、トテモオマエハネニ…

うちあけばなしとこたえあわせ

いわゆるタワマン文学って奴が好きで。 最近また会うようになった大学時代の仲間と飲んだ後にはついその手の物語が読みたくなる。自分を人と比べては、くだらない優越感だの詮ない劣等感だのを抱く己のフラフラな自意識を相対化したいのかもしれない。評価項…

世界中が雨の日も

三宅隆太さんと澤田大樹さんのPodcastを聞いていたらどうしてもその舞台が見たくなって、ふらっと下北沢に行ってきた。かわいいコンビニ店員飯田さんというふざけ倒した劇団名とは裏腹に、奇をてらわない真っ直ぐな、いい舞台だった。 朝食中に思い立ってそ…

分かるよ、そんな夜、俺は焼酎をあおる

今はもう会えない友達に、カッコつけてそんなことを言ったのを覚えている。あれから飲酒生活はずいぶん健康的になったーーいやそうでもないけど、少なくとも平日は飲まずに寝ている。 でも年に何度かは寝床で悔しさで胸を一杯にしてはああこりゃダメだって、…

Sept 2023

好きな映画は覇王別姫だと言っていた君のこと分かった再上映ちょっぴり遅すぎたみたいだ 駅ビルにカルディができたってね カルディにわくわくできたあれは10年以上前

ジュテームモアノンプリュ

実際には10年近く前に別れた俺たちは、その夢の中でまだ付き合っていた。気持ちは冷めたまま、あれからずっと一緒にいたらしい。出かけた帰りの夜、二人は街ではぐれてしまい、俺は必死に彼を探す。ようやく見つけた時に恋人は知らない誰かと話していた。も…

笑っちゃうぐらいサラリーマン的なやつ

今の仕事は横並びの同僚が多いわけでもないし、在宅勤務が基本になるといざ人間関係でつまずくと簡単に煮詰まってしまう。こりゃいかんと思って昔の上司に付き合ってもらった。遠慮して昼飯でもとお願いしたのだが、いや飲もうと言ってくれてありがたかった…

Funeral Tunes

俺に自慢できることがあるとすれば音楽の趣味が良いってことで、昔作ったプレイリストを見つけるとセンス最高で驚く。何かの映画で見た、自分の葬式でかけてもらう10曲。全部選び切るのは縁起が悪いと思って9曲にしたんだな。iPod Mini! 最近は葬式の10曲の…

everyone's fighting a battle you know nothing about

量産型ゲイ上位50人の旅行で撮られたウォーリーを探せみたいな集合写真を「おすすめ」してくる俺のタイムライン。自業自得だ。 最近辛いことを体験したという、SNSでよく見かけるモテ筋ルックの彼もいる。もう、人間としての造りが自分なんかとは違うんだろ…

Lost in the Supermarket

人が会社を辞めるときに社内に出す挨拶メールが好きで、コレクションしておけばよかったと時々思う。こないだ米国の人間から受け取ったのも素敵だった。「幼い娘に何をしたいと聞いたら、お仕事にジャマされずにずっとママと遊びたいと言われたので、8月はず…

恋をしていたのは去年の夏の頃さ

熱帯夜を泳ぐようにコンビニに寄りながら帰ってきてはバルコニーでメッセージを読んだ7月を思い出す。 朝ジムに行くようになったのはあの頃か、意外と最近だな。

What does it take to turn you on?

アンダーソン/バトラー。1990年代初頭のほんの一瞬、レノン/マッカートニー、ジャガー/リチャーズに限りなく近づいた黄金コンビ。 来日チケを取って以来ずっとSuedeを聴いている。悪趣味と退廃とナルシシズムを混ぜてとろ火で煮込んだようなブレット・ア…

曇り空、初恋、ランニング

https://nakedbeast.hatenablog.com/entry/2023/06/18/200409 こんなことを書いたもんだからあの頃のことを思い出しちゃった。 年に一度、マラソン大会だけヒーローになる奴がいる。俺がそれで、バスケ部で万年補欠なんかやってるくせに、長距離だけは人より…