昨年の秋に購入して読みどきを見計らっていた津原泰水『夢分けの船』を今回の旅の相棒にしたのは果たして大正解だった。著者らしく瀬戸内の方言にこだわって書かれた青春小説を、まさにそのあたりを列車、バス、船で移動しながら少しずつ読み進めてきた。こんな贅沢な時間、なかなかない。
東への帰路はメインイベント、寝台特急。荷物を個室に押し込んで発車早々ラウンジに陣取れば先客にハタチ前の男の子、高そうなカメラをカウンターに置いて腹ごしらえの様子。
特別な夜だ、缶ビールのお供の選択には持てる経験と勘を総動員した。得心のチョイス、骨付鳥(柚子胡椒、にんにく醤油添え)に齧りつく。隣の彼のメニューはと見ればコンビニのそぼろ弁当。完敗だ。
少年、俺は君の若さが心底うらましい。特別な夜に特別な小道具を必要としない若さが眩しいよ。いい写真を撮ってくれ。