人が会社を辞めるときに社内に出す挨拶メールが好きで、コレクションしておけばよかったと時々思う。こないだ米国の人間から受け取ったのも素敵だった。「幼い娘に何をしたいと聞いたら、お仕事にジャマされずにずっとママと遊びたいと言われたので、8月はずっとそうして過ごします」と書かれていて、人ごとながら嬉しくなってしまった。
もう一つの会社あるあるに、産休中の女性が赤ちゃんを見せにオフィスに来るというルーティンがある。あれはもう本当に苦手で、男の自分でもそうなんだから、女性で条件が揃えば、相当キツイだろうなと想像する。
独身でいることをそこそこ楽しんでいる。けれど、世の男たちが身軽さと引き換えに手にしているという噂の、家庭の温もりを思うときに、鈍い痛みのような感覚を抱かないといえば嘘になる。仮に異性愛者だったとしても自分は結婚はしないだろう、と友人が言うのを聞いて軽く同調したが、あとで考え直した。
正直に言ってしまえば、俺だって欲しい。例えば富士住建のCMでこれでもかと記号的に描かれる、いわゆる普通の家庭の幸せってやつが。
何が言いたいかというとだな。富士住建のCMみたいな生活を世の中は「当たり前の、平凡な庶民の慎ましい幸せ」みたいに見なすけれど、結構な条件を満たさないと得られないものだってこと。
誰かにしか手に入らないものを幸せとは言わない?
言ってくれるじゃないか、坂元裕二さん/是枝監督。CMの親子、俺にはあれが幸せじゃないとはまさか思えないんだよ。そんであれは、俺にはどうやったって手に入らないんだ。分かってる?