怖いもの見たさで足を踏み入れた20代の頃、Rはまったく魅力的じゃなかった。ところが10年以上の間を空けた再訪時には割と楽しめて、ああ俺も中年になったもんだと思った。新世界の外れにあるゲイサウナRは客の年齢層が梅田のHよりも高い。もっとも、俺が年を…

オーナーの趣味らしく館内の至る所に置かれた美術品の優雅さは、男同士が性欲を満たすというその場所の身も蓋もない目的とは不釣り合いだった。 エロティックな姿態のオブジェを横目に地下に降りるとブルーゾーン。狭い階段にはいつも、体温そのものみたいな…

社会学的に必然性のあることなんだろうけど、飛田と釜ヶ崎の間というロケーションがまたそそる。いわゆるハッテンバとして日本で最古といわれる、T旅館の跡地を初めて訪ねたのは2016年頃だったかな。大物芸能人が来たことがあるだの、全盛期には一晩に何百人…

大阪に縁のあるゲイなら知らない者はいない、HとRが突然閉店らしい。思い出深いなんてもんじゃなく、あの二軒で過ごした時間は間違いなく今の自分の血肉になっている。ああいった場所だけが持つ妙な温かさ、心をきゅっとさせる湿り気についてはいつか書いて…

先週花見しておいてよかった。 お試しの禁酒、最初の週末。もともと平日は飲まないようにしてるので酒浸りではないつもりだけど、休日に素面でいると、つまんねえなあという気分がうっすらとある。19時から22時ごろが手持ち無沙汰なので映画に。 「ロストケ…

お前が出て行ったあとに届いたいくつかの督促状と、お前じゃない名前の成績証明書。あの3ヶ月、お前が確かに俺の部屋にいたことを示す頼りないよすがとして捨てられなかった。なあR、お前は誰だったんだ？ 踏み倒された8万は授業料だ。顔と体がタイプだから…

畳敷きの小さな部屋が好きで。 ほら、あるじゃないですか、商店街とか町内会の集会所みたいにコミュニティの人たちが共有している小屋みたいな建物とか、神社の敷地内にある、あれは何ていうんだろう、ちっさいちっさい別館みたいなやつ。 集会所は秋祭りの…

一週間の終わりに仕事を切り上げて駅前の飲み屋街で呑むビールが世界で一番美味い。 確か15年ほど前だったか、一度は入ったことのあるおでん屋。当時ばあさんがやっていて、年季の入った内装が落ち着く、いい店だったけど、馴染みにするほどの決め手はなくて…

▪️カルガモが食べるもの食べないもの。 ・食べる: パン。炊いた米。 ・食べない: ちくわ。白菜。固くなったパン。豆腐。ビスケット。りんご。 ・個体による: バナナ。 ▪️公園には、毎日鳥に餌付けをしてる変な奴がいる（俺も仲間入り） ▪️川にはけっこう鳥が…

懐かしい。胸が温かくなる。距離を感じる。恋しい。思い出して痛い。忘れてたことに気づく。余韻が豊か。心が疼く。動揺する。2023年のニッポンには「エモい」という便利な言葉がある。心の柔らかいところを晒したくない照れ隠しのようでいて、やはりその言…

朝の散歩の帰り、図書館の公園にいる鴨に餌でもやるかって豆腐バーちぎって投げたら、ついばむだけで食いやがらねえ。 やっぱ穀物か？って今度は昼にビスケット買ってって袋開けてたら、カサカサ音に釣られてあいつら池から上がって足元ウロウロすんのな。鳥…

映画のBLUE GIANTを観た時も思ったけど、自分には才能がないと気づいてからが人生だ。手札は限られてる。そう思い知ってからのほうが、生きてかなきゃいけない時間は長い。CMで安藤サクラが言ってたな。大人って長いよ、と。 大学の仲間と会うと五十路が見え…

サブスクに入ったのをきっかけに、中島みゆきをしばらく聴いている。一番好きなのは「あした」から10年ほどの時代、「浅い眠り」「瞬きもせず」あたりの、力強くもどこか抜けがいい楽曲群なのだけど、初期作もいくつかは聴いていて、「愛していると云ってく…

「越境者だけが自己紹介をする」 「転校生は自己紹介が上手くなる」 東京ポッドで語られていた自己紹介論というか日本人論というか、共同体論。「ガンニバル」みたいなコンテンツを観ていると、田舎を馬鹿にしすぎでは、と思うことがあるのだけど、あれはま…

週末の小旅行で千日前のアムザに泊まった。何年ぶりだ。桂米朝の訃報を知ったのもここに泊まっている夜だった。長く付き合った相手と終わった直後の関西出張、俺にはもうあいつはいないし、大阪にはもう米朝がいない。もう最悪だと思ったのを覚えている。 大…

懐かしい、という言葉は英語にないというけど、missという動詞が日本語にないのも、たいがい不便だ。 ドキュメント72時間で見た奄美の高校生の言葉が良かった。相撲の強豪校に進学したために普段は島を離れている彼は、コミュニティFM局での質問に答えて、「…

「郷愁は過去の幸福と達成を思い出させて私たちを安心させる。記憶の銀行にある思い出は、自分が価値ある人間だという自信を与えてくれる」と、その本には書いてあった。 また別の本で、もう二度と味わえない体験を思い出してそれがもう二度と味わえないとい…

祖父はよく子どもの俺を飲み屋に連れて行った。覚えているのは近所の焼鳥屋や、「しんせかい」という名のホコリっぽい場所。1980年代半ば、あの辺はまだ正真正銘の「大人の街」だったんだと思う。賑わいやら人いきれ、くすんだ空気の非日常に心が躍る感覚を…

「『幸せをお金で買う』5つの授業」によると、幸福感に結びつく金の遣い方のキーは、 1) 経験を買う 2) ご褒美にする 3) 時間を買う 4) 先に支払ってあとで消費 5) 他人に投資する というものらしい。 若い時に比べてだいぶ稼げるようにはなったが、まったく…