青春のかけらを置き忘れた館

大阪に縁のあるゲイなら知らない者はいない、HとRが突然閉店らしい。思い出深いなんてもんじゃなく、あの二軒で過ごした時間は間違いなく今の自分の血肉になっている。ああいった場所だけが持つ妙な温かさ、心をきゅっとさせる湿り気についてはいつか書いておこうと思っていたけれど、早くもその時が来てしまった。

浴室のあの青い魚や、廊下のブロンズ像、階段の大理石彫刻を、この目で見ることはもうないのか。ちょっと信じられない。別れた恋人?いや、死んだ友だちや、取り壊された母校みたいだ。

二十歳のころに初めて読んで、最近よく思い出す一節をせめてもの慰めに。「しかし、人生の後半生というのは、いろいろなものを喪失してゆく長い過程なのであってみれば、今度の経験も格別どうというほどのことではなかったのかもしれない」(「乗継ぎのための三時間」F.S.フィツジェラルド)