妹が結婚したのはもう20年近く前。今はこの世にいない女友達が、かぐや姫の「妹」みたいな気持ちかい?と聞いてきて、俺はその歌を知らなかったからわざわざCDをレンタルしたんだった。ユーチューブもサブスクもなかった頃。さすがにそんなセンチメンタルな気持ちになるわけもなく、挙式の帰りほろ酔いで立ち寄ったゲイサウナで出会った相手とその後7年付き合ったのはまた別の話。
「お前は歩き出すのが遅くてパパたちをずいぶん心配させたよ。けれど周りの子よりずっと遅れてついに立ったと思ったら壁まで一気に駆け抜けた」ーー何かのドラマで耳にして、自分が言われた言葉のように記憶している。俺も昔からそうだった。何にせよ掴むのが遅いのは自覚している。一桁の数字だけが並ぶドリルを前に、足し算の意味が分からないと母親に泣きついた日のことを、ぼんやりと思い出す。一年生の算数に比べれば、クラッチなんか何でもない。そうだろ?